羊をめぐるブログ

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重松清さんの「疾走」を読んだ

重松清さんの「疾走」を読んだので感想を書きます.

概要

インターネッツ上では重松清さんの異作かつ名作として有名なようです. 直木賞を受賞した「ビタミンF」では家族の生々しい現実としかしそこに残る暖かい関係というのが書かれていた気がしますが, そういうものとはかけ離れていたように思えます. 私は悲壮を感じるのがとても好きなので,この作品もとても好きになれそうでした.読むのに熱中して朝日が上るのを目撃してしまいました.

なぜ読んだか

名前も顔も,そもそも存在するかもわからないけど間違いなくいい人に,おすすめの作家として重松清さんを教えてもらいました. 最初は有名な「ビタミンF」を読んでいたのですが,作中のテーマだと思われる家族の絆が私には非常に現実的かつ, 生々しく感じられてしまいました.私は母や父が苦労しつつも注いでくれる精一杯の愛というようなものに,なぜだか 私が好む悲壮とは全く反対の悲しさを見てしまいます.自分が親の人生を阻害してしまっているという申し訳なさが 浮かぶからかもしれません.なんにせよ,「ビタミンF」を読んでいると辛い気持ちになりました. なのでもっと絶望に近いような作品はないか,ということで「疾走」を読み始めました.

最初の印象

裏表紙のあらすじやネット上に書かれたストーリーの概要も見ずに読み始めたので,話に関する先入観は, 絶望の予感以外にはありませんでした.衝撃的な表紙からも,人生をなくし,行くあてもなく疾走する少年の絶望のようなものが 感じられました

内容の感想

期待を超える衝撃を常に与えてくれる小説でした.不穏な空気が漂う家族と,ビー玉越しの景色のように歪みつつも 綺麗だったりする町.それらが止まることなく壊れていく様子.素晴らしい人間になれただろうに,周りの崩壊に 合わせてどんどん壊れていく主人公.全てに期待せず別世界で生きているようなヒロイン. 心の救いであり,祈り続けてくれる神父様.それらを書く疾走感のある文章.読んでいる途中も,読み終わった後も, すげぇなぁと思いました.私はこの小説のように,人間の感情と,それによる出来事の連鎖からなる,人の人生そのもの を表すような作品がとても好きです.特にこの小説は,登場人物の環境,心情の絡みが空気感も合わせてそのまま表現 されているようで,自分が人生を追体験しているように思えました.

小説中にはよく聖書の引用が出てきます.私は,宗教というものがよくわかりませんでした. でも,どんな人生の先にも誰かの祈りと,一筋の救いがあると,信じるためにあるのかと何と無く納得しました. 人生には間違いなくどうしようもないことがたくさんあって,それは人間そのものを破壊しようとしてきます. 私が今普通に生きれているのも,そんなどうしようもないことに出会う機会がたまたま少なかったからです. 自分は運よく生きれていて,それがいつ壊れるかもわからない.もし壊れてしまってもどこかに希望や救いがある. 与えられたものを楽しみ,精一杯生きていこうと思いました.